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脇町簡易裁判所 昭和46年(ハ)9号 判決 1974年6月25日

原告 金島弘生

右訴訟代理人弁護士 森一朗

被告 金島茂利

右訴訟代理人弁護士 大野忠雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

1、徳島県美馬郡穴吹町古宮字田野内所在の通称「から谷」の北側にして、右「から谷」を南北に横切れる通称「下の藤原道」の西(真下)に在る別紙図面記載の「×墓地」の北端の「日露戦役云々」と刻まれた最も大きな墓石の上端中心部を原点とし、別表測点表ならびに同図面(徳島地方裁判所昭和三九年(レ)第一五号事件の判決添附の測点表・図面に同じ)記載の13、14、15、16、16′、28、29、30、31、13の各測点を順次直線を以って結んだ範囲内の土地(以下単に本件係争地という)につき、原告が所有権を有することを確認する。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文と同旨。

第二、当事者双方の主張

(請求の原因)

一、徳島県美馬郡穴吹町古宮字田野内三九一番山林一二、一六一平方メートル(以下単に三九一番山林という)は、もと訴外原田誉夫の所有であった。

二、原告の父金島兵治郎は、昭和二五年一月二六日、右原田から三九一番山林を買い受けてその所有権を取得した。

なお、三九一番山林につき、原田から父兵治郎への所有権移転登記は、昭和三六年一月一三日である。

三、原告の父兵治郎は、三九一番山林を買い受けた昭和二五年一月二六日以来、本件係争地を右山林の一部に含まれるものとして、爾来所有の意思をもって、平穏かつ公然に占有しつづけ、その占有の始め自己の所有に属する山林であると信ずるにつき無過失であったから、同日から一〇年を経過した昭和三五年一月二六日をもって本件係争地を時効取得した(民法一六二条二項)。

四、原告は、昭和四三年六月一五日、父兵治郎より三九一番山林(本件係争地を含むものとして)を贈与され、その所有権を取得した。そこで、原告は、昭和四六年九月七日の本件口頭弁論期日において右時効を援用した。

五、本件係争地に関し、次の訴訟があった。

すなわち、

土地境界確認ならびに損害賠償請求訴訟として、

第一審、原告金島兵治郎、被告金島正明、同金島茂利間の脇町簡易裁判所昭和三七年(ハ)第五八号事件(原告勝訴)。

第二審、控訴人金島正明、同金島茂利、被控訴人金島兵治郎間の徳島地方裁判所昭和三九年(レ)第一五号事件(控訴人勝訴)。

上告審、高松高等裁判所昭和四四年(ツ)第三号事件(上告棄却)。

六、而して、本訴の請求原因は、右訴訟のそれとは異なるところ、被告は、原告の本件係争地の所有権を争うので右所有権の確認を求める。

七、なお、被告の答弁八項の事実は認める。

(請求原因に対する被告の答弁)

一、請求原因一項の事実は、認める。

二、同二項の事実は、不知。

三、同三項の事実は、否認。

四、同四項前段の事実は、不知。

五、同五項の事実は、認める。

六、同六項の事実は、認める。

七、本件係争地は、前記訴訟事件において、占有支配関係をも充分審理した結果、三九一番山林に含まれず、むしろ、被告の父金島正明と被告との共有する同所三九二番山林に含まれるものと認定せられているので、争点効の理論か、他の法規によって原告の本訴請求は棄却を免れない。

八、なお、被告の父金島正明は、昭和四三年五月二九日死亡し、同日相続開始した結果、その相続人である被告と訴外金島美代子の両名が右三九二番山林を共同相続し、その後間もなく、被告と右美代子の両名は、遺産分割の協議をして右三九二番山林を被告の単独所有となした。

第三、証拠関係≪省略≫

理由

一、職権をもって按ずるに、既判力をもって存否の確定せられた権利または法律関係が、既判力の及ぶ主体間の訴訟で、訴訟物となったときは、裁判所は、前の確定判決の基準時までの権利または法律関係について、右の既判力に拘束され、既判力と異なる判断を下すことができない。そのため、当事者も、既判力と異なる主張をすることができない。従って、もし、前訴の既判力が及ぶと認められる後訴があれば、その後訴は失当として請求棄却を免れないこととなる。

二、そこで、前訴判決の既判力が本訴請求(いわゆる後訴)に及ぶか否かを検討する。しかして、右検討をするに当っては、その客観的範囲、時的限界、主観的範囲の三点からの考察を必要とする。以下右の順序で、検討する。

(イ)  まずはじめに、本訴請求は、前訴判決の既判力の及ぶ客観的範囲と同一か。

証拠によれば、金島兵治郎は原告として、金島正明、金島茂利両名を被告として、脇町簡易裁判所昭和三七年(ハ)第五八号土地所有権確認等請求事件として訴(第一審)を提起したところ、同裁判所は、原告勝訴の判決をなした。これに対し、右被告両名は、徳島地方裁判所昭和三九年(レ)第一五号所有権確認等控訴事件として控訴したところ、同裁判所は、「一、原判決を取消す。二、被控訴人の請求を棄却する。三、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決をなしたので、被控訴人金島兵治郎は、高松高等裁判所昭和四四年(ツ)第三号所有権確認等請求事件として上告したところ、同裁判所は、「本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。」との判決がなされ、右徳島地方裁判所昭和三九年(レ)第一五号事件(以下単に前訴という)の判決が昭和四六年六月二九日と確定したことが認められ、この確定判決中、土地所有権の範囲の確認を求める請求部分の土地範囲は、原点を、同裁判所の昭和四二年一〇月二〇日施行の現場検証における検証図面記載の「×墓地」の北端にある「日露戦役云々」と刻まれた最も大きな墓石の上端中心部とし、別表測点表ならびに別紙図面記載の13、14、15、16、16′、28、29、30、31、13の各測点を順次直線をもって結んだ範囲内の土地であり、右の範囲内の土地所有権につき既判力が生じたものであることが認められる。ところで、本訴の請求は、前記請求の趣旨記載のとおりであるから、右前訴の訴訟物と同一であると云わなければならない。けだし、前訴も、本訴も共に所有権確認訴訟であるから、前訴の請求の趣旨と本訴の請求の趣旨とを対比すれば、両者の同一性を判定しうるところ、右両者は全く同一であるからである。よって、本訴請求(右のいわゆる客観的範囲)については、前訴の既判力が生じていると云わなければならない。

(ロ)  次に、本訴請求は、前訴判決の既判力によって遮断されるか(既判力の時的限界)。

証拠によれば、前訴の事実審である控訴審の口頭弁論の終結時(既判力の基準時)は、昭四三年四月一五日であることが認められるところ、本訴原告は、本訴において、右金島兵治郎が、昭和二五年一月二六日以来一〇年を経過した昭和三五年一月二六日をもって本件係争地を時効取得したこと、および右時効を援用する旨主張するものであるから、本訴請求は、前訴の既判力によって遮断される。けだし、証拠によれば、前訴における請求を理由あらしめる事実は、本件係争地が三九一番山林に含まれるか否かであったことが認められるのに対し、本訴におけるそれは右の如く時効取得の主張であって、請求を理由あらしめる事実は全く異なるけれども、右時効取得は、前訴の既判力の基準時以前に生じていたものであることは、右の原告の主張自体から明白であるから、前訴当時、右金島兵治郎において、前訴とは別の所有権取得原因である時効取得の存在を知っていたと否とを問わず(その存在を知らなかったことについて過失ないときも含む)、その事由を新たに主張させることは、紛争の最終的解決をはかろうとする既判力制度の趣旨にもとるものと云わなければならないからである。

(なお、右時効主張の中に、二〇年の時効取得民法一六二条一項の主張は含まれないものと考える。)

(ハ)  最後に、前訴判決の既判力は、本訴の当事者に及ぶか。

既判力は、民事訴訟法二〇一条一項の規定により、当事者、口頭弁論終結後の承継人に及ぶ。ここに承継人とは、前訴の既判力の基準時以後において、当該の訴訟物につき当事者たるべき適格(実質的に、紛争主体たる適格)をその訴訟の原告または被告から伝来的に取得した者をいい、かかる者(いわゆる一般承継人、特定承継人)は、その被承継人の相手方との関係において、既判力を受ける。しかして、前訴の既判力の基準時は、前記のとおり、昭和四三年四月一五日であるところ、証拠によれば、右基準時の当事者は、控訴人金島正明、同金島茂利、被控訴人金島兵治郎であることが認められるから、本件被告は、当事者本人であると共に、右正明は、右基準時後である昭和四三年五月二九日死亡し、同日相続開始した結果、その相続人である右茂利と訴外金島美代子において共同相続したことは当事者間に争いがないから、この当事者適格を右正明から取得したいわゆる一般承継人の地位をも兼ねているものである。

他方、証拠によれば、右被控訴人金島兵治郎は、本訴原告に対し、右基準時後である昭和四三年六月一五日、三九一番山林を贈与し、その旨の所有権移転登記手続を経由したことが認められ、さらに、本訴原告は、右兵治郎において、昭和三五年一月二六日、本件係争地の所有権を時効取得し、右贈与の際、本件係争地が三九一番山林に含まれるものとされていたので、本訴において右時効取得を援用する旨主張するものである。そうすると、本訴原告は、右基準時後において、右被控訴人金島兵治郎の適格を伝来的に取得した者であり、いわゆる特定承継人に当ると云わなければならない。果して然らば、本訴原告、本訴被告は、右法条にいう当事者、口頭弁論終結後の承継人に当り、前訴の既判力の効力を受ける者であると判断しなければならない。

(ニ)  以上により、前訴の確定判決の既判力は、本訴請求に及ぶものであると論結しなければならない。そして、他に前訴判決確定後に本件係争地の所有権を取得したとの主張もない。

三、よって、以上の事実によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき同法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本愼太郎)

<以下省略>

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